【蔵見学録_07】廃業から復活した御湖鶴酒造場|IWCチャンピオン受賞の裏側【御湖鶴酒造場様】
こんにちは。日本酒を愛し、日本酒に愛された男、佐々木一慶です。
日本酒の沼にはまり続け、気づけば「J.S.A. SAKE DIPLOMA(日本酒ディプロマ)」まで取得してしまいました。日々酒蔵巡りをしながら学びをお客様への提供や店舗運営に反映させています。

今回は、長野県下諏訪町にある御湖鶴酒造場さんを訪問🍃
実質的な経営と酒造りを一手に担う専務・竹内様が丁寧にご案内してくださいました!
日本酒好きの間では「廃業して復活した蔵」として注目を集めていますが、その裏には経営と酒造りを徹底的に因数分解した、驚くほど合理的な哲学が詰まっていて…✨
恒例のタイトル付けは、
『復活ではなく”第二次創業”だった。シン・御湖鶴酒造場、完全新生の裏側。』
こんな感じです✨
今回は第7回目のレポートです!過去アーカイブはこちらから!
御湖鶴酒造場とは|”廃業から復活した蔵”の歩み
御湖鶴酒造場は、長野県下諏訪町にある酒蔵。
大正時代創業、100年以上の歴史を誇りましたが2017年に廃業😱
翌2018年、親会社(福島の運送会社)が土地と建物を取得し、2月に製造免許が下りて見事復活を遂げました。
元々いたスタッフは総入れ替え、その後、建物自体も新設されたので、以前の酒蔵として残ってるのは土地とブランド名くらいとのこと😲
ここは我々も正しく知れてなかったところでした…
下諏訪の地で唯一復活した酒蔵として、初年度は年間1万本・100石のみを製造。
直後、コロナ突入により大打撃を受けながらも、その真っ只中の2021年、世界的な日本酒コンテストIWC(International Wine Challenge)でのチャンピオン・サケ受賞を機に売れ行き的にも復活を果たしました🏆
復活から7〜8年、「やっと自分たちの酒の方向性とベースができてきた」という言葉が印象的でした。

異例の支援体制:売上目標なしで「品質第一」を貫く親会社
親会社は福島県の磐栄運送という運送会社さん。
酒造りには一切関与せず、ただひたすら応援するためだけに出資してくれているエンジェル投資家的な存在です。
そして、この親会社から竹内さんへのオーダーはたった一つ。
💬「お酒のことは全くわかりません。酒蔵の経営や造りに口出ししないので、数字よりもまずお酒の品質を上げることを最優先にお願い致します」
これが全ての意思決定の原点です。
- 酒造りの判断は全て竹内さんに一任
- 売上目標や利益目標の要望すらなし
- 大掛かりな設備投資を快諾
- ゆくゆくは分社化を予定
👉竹内さんは「ホワイトナイト」的な存在といってましたが本当にその表現がぴったりでした。廃業した蔵を救ってい再生を一任してくれるなんてあり得ないですね😅

この「品質第一」という唯一のオーダーが、後述する全ての判断——設備投資、農家の選定、チーム体制、火入れの手間——全ての根っこになっています。
また、磐栄運送(BHC)さんは蔵の近くのサッカーチームのスポンサーも務めており、週末にはセミナーも開催。地域との繋がりも大切にされています。
🧠 経営と酒造りを”因数分解”したスーパーマン・竹内さん
今回のキーパーソンは、
酒蔵の設計・経営・酒造り・デザイン・ブランディング・マーケティング・蔵内の安全設計まで、全ての意思決定を担う専務の竹内さん。
経歴がとにかく興味深い
- 元々は飲食業出身
- 長野銘醸の社長代行を経験
- 経営を任されたことをきっかけに酒造りを学び、杜氏に
- 家庭の事情でいったん酒造りを離れるも、縁ある酒屋さんの紹介で御湖鶴に
- 現在は片道120kmを通勤中!家業のりんごとぶどう農家も続けながら!
最初は就任に消極的だったそうですが、「新設の酒蔵を作る」「最高品質のものを作ってほしい」という条件と、土地の歴史と観光地の諏訪湖に近いといった様々なポテンシャルに勝算を見込んで、自らプレゼンして参画を決断。
💡酒造りの素人だった時期から独学で学び、今では蔵の全てを掌握する経営×技術×クリエイティブのハイブリッド人材。職人肌ではなく、どこまでも合理的な経営のプロという印象でした。
ラベルデザインのシンプルさ、ラベルの色で印象を持たせるブランディング戦略、安全で清潔な動線の蔵内設計、そして営業ゼロでも選ばれる仕組みづくり——全てが一人の頭から生まれているというのが、正直一番の驚きでした。
💡造りの工程「機械に任せるところと人が必要なところを綺麗に分けた」という言葉がすごく刺さりました。これって製造業だけじゃなく、我々にも通じる考え方ですね!

💧 水と米へのこだわり|和田峠の水と契約農家6軒の酒米
◼︎水のこと
水源は和田峠という、古来より黒曜石の有数の産地で、岩盤が硬くいい水が採れることで知られているそうです。
面白いのが、峠で汲んだ水と水道水を分析したら成分と状態が全く同じだったこと。
- 検証の結果、濾過した水道水を使用
- 「水の選定からスタートした」というほど、徹底的に確認してから決断
米のこと
7種類の酒米・飯米を使用(酒米6種+飯米1種)。
| 銘柄 | 備考 |
|---|---|
| かぜさやか | 長野県産 |
| 金紋錦 | 長野県産 |
| 山田錦 | 長野県産 |
| ひとごこち | 長野県産 |
| 美山錦 | 長野県産 |
| 山恵錦 | 長野県産 |
| 五百万石 | 福島産(復興支援) |
- 米の生産者は全て固定、ここまでやっている蔵はあっても1〜2社
- もともと400軒あった農家の候補の中から6軒に厳選
- 裏ラベルに農家の名前を記載
- 精米は新潟の精米所に委託(質の高い精米にこだわる)
五百万石が福島産なのは、親会社が福島に縁があることと復興支援の意味も込めているとのこと。合理的な経営判断の中にも温かみがありますね🌾

🍶 酒蔵の造り・設備|クリーンルーム仕様の麹室と徹底した温度管理
施設のユニークな設計
- 蔵の真ん中にセミナールームを設置
- └ 両側から製造スペースを見渡せる造り(見学者にも、働く人にも)

セミナールームから見える製造現場

反対側

麹室は”クリーンルーム仕様”
従来の木造麹室ではなく、クリーンルームに使うような最新素材を採用。
- 木造のメリット:湿気を吸ってくれる
- 木造のデメリット:匂いがつく
- クリーンルーム仕様のメリット:手入れがしやすく、断熱性が高い

徹底した温度管理・データ管理
- 部屋の温度もお酒の温度も0.1℃単位で管理
- 搾ったらすぐ-5℃に。完全密封して火入れ
- 全製造スペースに空調完備
火入れへの姿勢
従来の「お酒を熱する」やり方はやらない。
👉 瓶燗火入れを採用し、通常の3倍の時間をかけて実施。ここは一切妥協なし。
3倍も手間をかけるなんて、ここは一見非合理に見えますが、全ては品質第一、”美味しい”のために必要だから行っているという意思決定がブレてないところ
🌾 精米歩合50%統一「純米吟醸」への哲学
- 精米歩合は全て50%(純米吟醸)で統一
- 「シンプルにわかりやすく」という合理的な判断
- 本当は特定名称自体も分かりずらいから止めたそうでした
- 同じ造り方で6種類を仕込む
- 酒米の違いだけを味わえる設計。利き酒的な楽しみ方ができる!
- ラベルはシンプルで、色で印象を持ってもらう設計
💡精米歩合や酵母等、米以外を全部そろえるのはブランドの一貫性として面白い。「どの米を使えば何の違いが出るか」が純粋に比較できるのは、飲む側にとっても楽しいですよね🍶

👥 少数精鋭6名”多能工化”チームの働き方
他の蔵なら10〜15名が必要なところを、わずか6名で運営。
しかもその6名全員が、麹づくりから火入れ・品質管理・衛生管理まで全工程をこなせるマルチタスク人材です。
これ、言葉にするのは簡単ですが実現するのは相当難しい。普通は「あの人しかできない」が積み重なって、特定個人への依存・属人化が起きるものです。
それを防ぐために徹底されているのが、トヨタ生産方式にも通じる”仕組みと標準化”の発想。
- 全工程の作業を設計・マニュアル化し、誰が担当しても同じ品質が出るように平準化
- リーダーがいなくても品質がブレない体制を構築
- 3〜4年かけてマルチタスク人材を育成(最短半年未満のメンバーも)
- 杜氏・職人への依存をゼロにすることで、四季醸造が可能に(リフレッシュ期間を設けたいから実際はしてない)
- 勤務時間は短く、休みもしっかりある(社員の働き方改革にも本気)
「多能工化」という言葉がトヨタ式にありますが、まさにそれ。全員が全工程できることで、欠員が出ても品質を落とさず対応できる。これは製造業の理想形のひとつですし、それは飲食業でも同じであるべきかと😲
ちなみに、フラットな関係を保つために酒屋さんとかの営業は一切していないとのことで、みんながいい酒を作るための環境作りを追求し続けています。
配送、配達みたいな業務も行わせないようにしてるらしいです…

🤩 衛生管理へのこだわり|過去一綺麗な酒蔵の秘密
新設されたばかりという優位性はあるとはいえ、過去数十蔵の見学を行った中で過去一綺麗な酒蔵でした。ウチでいう衛生検査Sランク99~100点くらい😀
- 業務用ケルヒャーとオゾン水を活用した徹底した衛生管理
- 「そもそも汚れない環境づくり」を徹底:角を作らない設計、UVカットガラス、タンクの高さや動線の設計まで細部にこだわり
🏆 IWCチャンピオン・サケ受賞が転機に
IWCでチャンピオンを獲得したことで一気にブレイク。受賞当日は深夜2時まで電話が鳴り続けたそう。
ここで印象的だったのは、竹内さんの動くタイミング”の早さ。
- ファイナリストに残った段階で「いける気がした」と確信
- 受賞確定を待たずに、その受賞酒に使った酒米を次のロット分すでに手配済み!
- 需要増による長期醸造に備えて冷房設備の手配
- 「受かってから動く」ではなく、「受かる前提で動く」姿勢
- その読みが当たり、チャンピオン受賞後の需要急増にも対応できた
- 数字的にも大きく改善し、これが「方向性」確立の転機に
👉 結果を待ってから動くのではなく、結果を見越して先手を打つ。これは経営者の本能というか、感度の高さだと思います。
「ファイナリストになった時から行ける気がして次に動いた」という言葉、シビれました。リスクと確信を天秤にかけて、確信が勝った瞬間にすぐ行動できる人間の強さを感じました🔥

🔤 「御湖鶴」の名を継いだ理由
夜逃げ同然で廃業した旧・御湖鶴の経営状況や酒造りの内情は、帳簿等が残ってたので全て把握済み。
- 「お世辞にも内容がいいとは言えなかったので、前の御湖鶴を超える自信ができた」
- 御湖鶴という名前を使った方が手に取ってもらいやすいと判断
- 復活のストーリーが興味を持ってもらえる武器になる
ロゴは刷新しつつ、鶴のモチーフは継承。歴史を尊重しながらもブランドを刷新した、鋭いブランディング判断です。

💭 見学を終えて|”仕組み化×品質”の御湖鶴哲学
御湖鶴酒造場さんの取り組みは、ひとことで言うと「酒造りの仕組み化×最高品質の両立」。
- 職人に依存しない体制で、品質のブレをなくす
- データと設計で再現性を高めながら、手をかけるべき工程は手をかける
- 少人数・短時間で動かせる仕組みを徹底設計
それは「楽をするため」ではなく、「酒造りに集中するため」「最高品質」の合理化であることが伝わってきました。
竹内さんの経営者としての視点と、杜氏としての感覚が融合した形でこそ生まれた酒蔵だと強く感じました。
全てが理にかなっているので、説明を聞きながら私たちは首がもげる勢いでうなずくのみ笑。「なぜそうするの?」の答えが必ず返ってくる蔵って、実はなかなかないんですよね…
🚀 今後の展望|スパークリング日本酒と海外プレミアム市場へ
- スパークリング日本酒の展開
- 日本酒の価値をもっと上げたい
- 世界のラグジュアリー層に届けるプレミアムラインの展開
- 現在の500石から1000石規模まで拡大できる体制の整備
✅ まとめ|御湖鶴酒造場が貫く”品質第一”のものづくり
今回の訪問は「酒蔵見学」というより「経営と品質向上の融合を学ぶ時間」でした。
竹内さんは、酒造りを”分解”して、機械と人、データと感覚を絶妙にバランスさせる設計者。
そしてその設計の先にあるのは、「自分たちにしか造れない酒を、長く造り続けられる仕組み」でした。

おまけ
好きな日本酒は何か聞いたら、竹内さんはビールが好きでビールばかり飲むという返答が返ってきました笑
強いて好きな日本酒をあげるなら、同じ長野、かつ、親友とも呼べるくらい仲の良い信州亀齢のお酒だそうです😀